2025年、Xで拡散した「病原菌密輸ニュース」とは何だったのか?
2025年10月、X(旧Twitter)上であるニュース映像が拡散されました。
内容は「アメリカFBIが中国人の研究者カップルを逮捕した」という、一見よくある国際ニュース。
出典:FCI News Catch!(フジテレビ系の全米向けニュース)公式アカウントの投稿
しかし問題は、その逮捕理由です。
2人がアメリカに持ち込もうとしていたのは、穀物を枯らし、人間や家畜にも健康被害を与える可能性がある病原菌だったと、米司法省や各種メディアが報じています。
出典:United States Attorney’s Office
ニュースを見た人たちの間では、
- これは「農業テロ(アグロテロ)」につながりうる危険な話なのでは?
- なぜ日本のメディアではほとんど報じられていないのか?
といった不安や疑問の声が広がりました。
この記事では、
- いったいどんな事件だったのか
- 問題の病原菌「フザリウム・グラミネアラム」とは何者か
- 過去の「違法ラボ」や「謎の種事件」との関連
- なぜ日本の大手メディアでは目立って取り上げられていないのか
を整理していきます。
中国人研究者による「病原菌密輸事件」の概要
米司法省・東ミシガン地区検事局の発表によると、2025年6月、
中国籍の研究者2人(ユンチン・ジアン、ズンヨン・リウ)が、
- 危険な生物学的病原体をアメリカへ密輸しようとした
- 共謀・密輸・虚偽申告・ビザ詐欺などの容疑で訴追された
と説明されています。
報道を総合すると、事件の流れはざっくりこうです。
- 中国人研究者リウ氏が、2024年7月にデトロイト空港から米国に入国しようとした際、
手荷物から袋入りの病原菌サンプルが見つかる - 彼は当初、携行品の中身について虚偽の説明をしたものの、
のちにフザリウム・グラミネアラムであることを認めたとされる
出典:ABC NEWS
- サンプルは、ミシガン大学の研究室で行う研究のために持ち込んだと供述
- その後、同じ研究室に所属していた交際相手のジアン氏も、
生物材料の違法な持ち込みや虚偽申告などで訴追される - 2025年11月、ジアン氏は有罪を認め、拘束期間を含む刑期ののちに国外退去処分となる見通しと報じられている
米当局は、この病原菌が「潜在的な農業テロ兵器」になりうるとして、
国家安全保障上の深刻な懸念を表明しました。
一方で、現時点で「2人が本当にテロ目的だった」と断定できる証拠は示されておらず、
研究用であった可能性も指摘されています。
ただし、適切な許可もなく危険な病原体を国境をまたいで持ち込んだという事実自体が、大きな問題とされています。
「フザリウム・グラミネアラム」とは何か?
では、問題の病原菌「フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)」とは何でしょうか。
穀物を枯らす「赤かび病」の原因菌
フザリウム・グラミネアラムは、
- 小麦
- 大麦
- トウモロコシ
- 米
などの穀物に「赤かび病(Fusarium head blight)」を引き起こすカビの一種です。
感染が広がると、
- 穂全体が枯れ上がる
- 収量が大きく減少する
- 農家・農業国にとって莫大な経済損失をもたらす
といった被害が世界中で報告されています。
人間・家畜への健康リスク
さらに厄介なのは、フザリウムがマイコトキシン(かび毒)を産生する点です。
- 嘔吐
- 肝臓障害
- 生殖機能への悪影響
などを引き起こしうる毒性があり、
穀物や飼料を通じて人間や家畜の健康に深刻な影響を与える可能性が指摘されています。
そのため、各国では食品や飼料中のマイコトキシン(とくにデオキシニバレノールなど)について、
厳しい基準値が設けられている状況です。
なぜ「農業テロ(アグロテロ)」と結びつけて語られるのか?
フザリウム・グラミネアラムのように、
- 穀物を広範囲に枯らす
- マイコトキシンで人間や家畜の健康も脅かす
といった特性を持つ病原体は、
一部の研究・軍事ドクトリンの中で「潜在的な農業テロ兵器」として議論されてきました。
農業テロ(アグロテロリズム)とは、
農作物や家畜を標的にして、病原体や毒物・害虫などを意図的にばらまき、
- 食料供給の混乱
- 経済への打撃
- 国民の不安・パニック
を引き起こす行為を指します。
今回の事件で、アメリカの検察やメディアが
「潜在的なアグロテロ兵器になりうる病原体」
と表現したのは、まさにこの文脈に基づいています。
もちろん、今回の2人の動機が実際に“テロ目的”だったかどうかは、現時点で不明です。
ただし、国家の食料安全保障を左右し得る病原体が、
許可なく国境を越えて動いていたという事実は重く受け止めざるをえません。
カリフォルニアの「違法バイオラボ」との共通点
今回の事件をきっかけに、ネット上では
「中国人が関与した違法ラボ」の話も再び注目を集めました。
2023年、アメリカ・カリフォルニア州リードリーで、
中国籍の人物が関与したとされる「違法バイオラボ」が摘発されています。
報道や議会レポートによると、
- 登録されていない実験施設で
- 医療機器や検査キットなどを違法に製造・保管
- ラベルに「HIV」「エボラ」などと書かれた容器や冷凍庫も見つかった
とされています。
このラボが本当にバイオテロ目的だったのか、単に違法ビジネスだったのかについては、
まだ議論の余地があります。
しかし、
- 「何が保管され、何がどこへ流れたのか」
- 「誰の指示・資金で運営されていたのか」
という点で、米議会レベルで調査が行われているのは事実です。
中国発の「謎の種」小包事件と日本の関わり
さらに、多くの人が思い出したのが、2020年前後に世界中を騒がせた
「謎の種の小包」事件です。
- 差出人欄に中国の住所や「China Post」と書かれた小包が、
アメリカ、欧州、日本など世界各地に届く - 中には説明のない謎の種子が封入されていた
- 各国の農務当局が「絶対に植えないでほしい」と注意喚起
といった経緯が報じられました。
後の分析では、多くが
- マスタード
- キャベツ
- ハーブ類
- アサガオ
- 花の種
など、すぐに危険とは言えないものも含まれていたとされています。
しかし、
- 外来種を意図的に拡散させようとしたのではないか
- 本当に危険な植物・病原体が紛れ込んでいてもおかしくないのでは
という懸念は、いまも完全には消えていません。
日本でも農林水産省が「心当たりのない種子が届いた場合は相談を」と
注意喚起を行ったことから、
日本もこの問題と無関係ではないことがわかります。
日本ではなぜほとんど報じられていないように見えるのか
今回の病原菌密輸事件について、
- ロイター
- ABC News
- Al Jazeera
- 各国の大手メディア
は相次いで報じています。
また、日本語でも、
- 海外向け日本メディアのニュース枠
- 一部の経済紙・電子版
がこの事件を取り上げています。
しかし、多くの人にとっては
「テレビのニュースで見た覚えがない」
「ネット記事でもほとんど話題になっていない」
という印象が強く、
そのギャップが「日本メディアはなぜ報道しないのか?」という不信感につながっています。
ここにはいくつかの可能性があります。
- 「海外の一事件」として優先度が低く扱われた可能性
- 直接日本が関わっていない
- 他の国内ニュースが優先された
- 専門性が高く、一般向けに噛み砕くのが難しいテーマだった可能性
- 病原菌・マイコトキシン・アグロテロなど、説明が必要な用語が多い
- 政治・外交的な配慮があったかどうか
- ここは外部から断定できないが、
一部の視聴者は「対中配慮で扱いが小さいのでは」と疑っている
- ここは外部から断定できないが、
いずれにせよ、
「海外では大きく報じられているのに、日本ではほとんど目にしない」
という状況が、
- メディアに対する不信感
- SNSや海外ニュースで自分で情報を取りに行こうとする動き
を加速させているのは確かです。
日本にとっての教訓:検疫とバイオセキュリティ、そしてメディアリテラシー
この事件と関連事例から、日本が学ぶべきポイントは少なくありません。
- 検疫とバイオセキュリティの重要性
- 病原体や種子などの生物材料の流通は、
人・モノ以上に注意深い管理が必要 - 「入ってきてから対処」では手遅れになるリスクが大きい
- 病原体や種子などの生物材料の流通は、
- 農業・食料の安全保障としての視点
- 戦争やテロは、必ずしも爆弾だけで行われるとは限らない
- 農作物・家畜を狙った攻撃は、
経済や社会に長期的なダメージを与えうる
- メディアリテラシーと情報ソースの分散
- 国内メディアだけでなく、
海外メディア・公式発表・一次資料にもアクセスする習慣が重要 - 一方で、SNS上の情報は真偽が混在しているため、
「陰謀論」と「実在するリスク」を冷静に区別する視点も必要
- 国内メディアだけでなく、
まとめ:目立たないニュースの中に潜む「静かなリスク」
中国人研究者による病原菌密輸事件は、
- 世界の食料生産を脅かしうる病原体が
- 思ったよりも簡単に国境を超えうる
という現実を突きつけました。
同時に、
- カリフォルニアの違法バイオラボ事件
- 中国発の「謎の種」小包問題
- 日本国内の食の安全を揺るがした過去の事件
などを思い出させることで、
「私たちの食卓と健康は、本当に守られているのか?」
という根本的な問いを投げかけています。
そして何より、
海外では大きく報じられ、
公式資料も公開されているにもかかわらず、
日本国内ではその存在すら知らない人が多いという現状自体が、
情報の偏りとメディア構造の問題を浮き彫りにしています。
静かに進むリスクに気づけるかどうかは、
最終的には私たち一人ひとりの「情報の取り方」と「考える力」にかかっています。






